僕の職業は薬師 1-1

僕の職業は薬師 1-1

マヌルを主人公っぽくしてみたいエルフ



物事には"丁度いい"という状態がある。

剣の才覚があれば剣士に、魔法が使えるなら魔導士に、筋肉があるのならば漫画家に、そして、人を導き守る者こそ勇者となる。

弱冠十五歳にして神に啓示された少女は二年ばかりの基礎訓練をこなし、期待の若手二人と幼馴染を連れて四人精鋭の旅に出た。

それから数ヶ月後勇者はハウンドドッグ・HHと戦い全治一週間の負傷を負うことになる。

民間人を守りながらの戦いではあった、しかし、仲間に独断で先行し不利を取ったこと、勇者に援護が出来なかったこと、なにより純粋な戦力が巨大な魔物を相手取るには不足していたと言うことが問題となった。

王都に戻ると、象徴であることこそが勇者の重要な役割であり、死んでしまえば意味はないのだと王から告げれた。 その後に続いた大臣による二時間ほどの小言を要約するとこうなる。

「周辺国からの圧力や活動を強めた魔王軍に対抗するため、急遽活動を早めたものであるが、いかんせん修練が足りていなかった。」と、すなわち、各々自分に見合った訓練に励み遅くとも数年以内に勇者パーティを再結成しろと言う王命であった。

気の知れた幼馴染と離れることを泣きながら駄々をこね、取り消しを求めた勇者だったが、その人に頼り切った油断が今回のミスを招いたのだから気を引き締めろと言われては、引き下がるしかなかった。

勇者は王都周辺を巡回し、人助けをしながら鍛え直すことにした。盗賊のティゴは実家に帰り多くの人から学ぶことにした。剣士のケンシは王国の騎士団に入り剣技を磨くことにした。


さて、ここからが本題である。勇者の幼馴染、マヌルは薬師である。

勇者の傷を直すのは本来ならば薬師であるマヌルの仕事だ。しかし、彼にはハウンドドッグの牙によってかけられた呪いを含む毒の進行を止めるのが精一杯であった。

彼にとって、最も大切な人間である勇者を助けられなかったかも知れない事実はそれだけで屈辱であった。

いかなる手を使ってでも勇者を助けられるようにならねばと心に誓った。しかし、魔法文明の発達したこの時代、薬師のように古式めいた職業はわざわざ選ぶ人などそうはいなかった。魔法に優れないものは武器を取れば良いのだ。

例えば魔法が使えず、しかし剣を持つ人を助けたいという特殊な事情のある物好きしか選ばない薬師は学びたくとも師事する相手ももういなかった。

そんな彼に大臣はあらゆる薬品の効果を高める水を生み出す賢者の石の捜索を命じた。マヌルの薬師としての基礎は師匠であり親代わりとなった故オウルタニア氏によって安定したものであると判断したのだ。


数日後、マヌルは森の奥へと足を進めていた。旅の道中使うであろう薬の材料となる植物の採取、そして謎の鉱石が森で稀に見つかるという噂の調査のためである。

この森の周囲は低水準なモンスターによって構成される生態系で循環されており、薬師のようなか弱い人間でも注意して動けば戦いを避けながら進むことも可能なのだ。

草木を分け、前へ進むマヌルであったが人気のないはずの森にふと、誰かの気配を感じた。すわ密猟者の類かと警戒しながら物音のする方へこっそりと近づくと、そこには、青い髪に青い服の少女が座り込んでいた。

「どうしよう、このままじゃネコさん死んじゃうの……」

TBC…

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